店主が選ぶ、雨の日に飲みたい一杯
雨の日の朝は、普段より少しだけ時間がゆっくり流れている気がします。お店の扉を開けて、換気をして、お湯を沸かす。いつもの手順のはずなのに、雨の音がどこかに混ざっているだけで、自分の所作もなんとなく丁寧になる。そういう日に、私がまず一杯だけ自分のために淹れるコーヒーについて、少し書いてみます。
選ぶのは、深煎りのブラジル
いくつかの候補のなかから手が伸びるのは、たいていブラジル・サントスの深煎りです。華やかさで言えば浅煎りのエチオピアのほうが上ですし、甘さで言えばコロンビアのほうが分かりやすい。それでも、雨の音に合うのは不思議と深煎りのコクの方なんです。
挽き目は中挽きのやや細かめ。湯温は少し低めの85〜88℃くらい。いつもより少しだけゆっくり注いで、1杯分180ccを2分半で落とします。急いで淹れないこと、それだけが自分に対するルールです。
お砂糖を、ほんの少しだけ
雨の日は不思議と、お砂糖が欲しくなります。普段はブラック派の方でも、このコラムのために試していただけると嬉しいです。角砂糖を半分だけ。溶かさずに、少しずつ口のなかでほどいていくような飲み方で。深煎りのビターがやわらかく丸くなって、ずっと続く静かな余韻になります。
コーヒーは「正解」が多すぎる飲みものだと思います。でも、雨の日くらいは、自分だけの正解を一つだけ持っていてもいい。私はそう思っています。
店頭では、こっそり「マスターのきまぐれ」として
実はこの飲み方、雨の日の店頭でときどき「マスターのきまぐれ」としてお出ししています。メニューには載っていません。注文されたお客様の空模様と、その日の湿度を少しだけ見せていただいて、いいなと思ったら、店主がそっとお出しするかもしれません。
雨の日の一杯が、次の晴れ間を少しだけ待ち遠しくしてくれたら。そんなことを考えながら、今日もお湯を沸かしています。
文:田島 翔(店主)